ここ10年程、整骨院業界では自費診療への移行を検討する動きが活発化しています。
保険診療に依存した経営では、収益の安定性や施術内容の自由度に限界があると感じている院も少なくありません。
しかし、急激な移行は患者さんの離反や経営悪化のリスクを伴います。
本記事では、保険診療主体の整骨院が、患者さんの理解と納得を得ながら自然な自費治療移行に成功するための具体的なステップと戦略を詳しく解説します。
なぜ今、整骨院は自費診療への移行を考えるべきなのか?

整骨院の経営において、保険診療は安定した基盤を提供する一方で、様々な制約も存在します。
施術範囲や料金設定の自由度が低く、材料費の高騰や診療報酬改定の影響を受けやすいといった課題に直面している院も少なくありません。
保険診療の限界と経営課題
保険診療は、施術内容や回数に制限があり、患者さん一人あたりにかけられる時間が限られるため、十分なサービスを提供できないケースも出てきます。
また、保険請求業務の煩雑さや、レセプト審査による返戻リスクも経営を圧迫する要因となり得ます。
1-2. 自費診療がもたらすメリット
自費診療は、これらの課題を解決し、整骨院経営に新たな可能性をもたらします。
- 収益性の向上: 施術単価を自由に設定できるため、保険診療と比較して収益性を高めることが可能です。
- 施術の質の向上と多様化: 保険の制約に縛られず、患者さん一人ひとりの症状やニーズに合わせた最適な施術を提供できます。高度な手技や最新機器の導入、パーソナルトレーニングやセルフケア指導など、より専門的で付加価値の高いサービスを展開することも可能です。
- 顧客満足度の向上: 患者さんの症状にじっくり向き合い、質の高い施術を提供することで、満足度を高め、信頼関係を深めることができます。
- 経営の安定化: 保険診療に依存せず、自院独自のサービスで安定した収益を確保することで、経営リスクを分散できます。
自費診療移行を成功させるための心構えと事前準備

整骨院の自費診療移行は、単に料金体系を変更するだけでなく、経営戦略、患者さんとのコミュニケーション、院内体制のすべてを見直す大きな変革です。
成功には入念な準備と、患者さんへの丁寧な説明が不可欠です。
院のコンセプトと強みの明確化
自費診療に移行するにあたり、まず自院のコンセプトと強みを明確にすることが重要です。
「何に特化した整骨院なのか」「どんな患者さんに来てほしいのか」「他の院との差別化ポイントは何か」を言語化することで、ターゲット層に響くメッセージを発信できます。
例えば、「慢性腰痛専門」「スポーツ障害に特化」「産後の骨盤矯正」など、具体的な強みを打ち出すことが有効です。
ターゲット患者の明確化とニーズの深掘り
どのような患者さんに自費診療を受けてもらいたいのかを具体的に設定します。
その上で、設定したターゲット層が抱える悩みやニーズを深く掘り下げて理解することが重要です。
例えば、「一般的な保険診療では改善しなかった症状に悩む人」「健康意識が高く、予防にも投資したい人」など、ターゲットのペルソナを設定することで、提供すべきサービスやコミュニケーションの方向性が見えてきます。
自費診療メニューの開発と価格設定
自院の強みとターゲット患者のニーズに基づいて、自費診療メニューを開発します。単なる延長線上ではない、付加価値の高いメニューを考案しましょう。
独自性のあるメニュー作成
一般的な施術だけでなく、専門性の高い技術や、患者さんが自宅でできるセルフケア指導などを組み合わせることで、独自の価値を提供できます。
例えば、姿勢分析に基づいたオーダーメイド施術、特定のスポーツ障害に特化したリハビリプログラム、美容整体など、自院ならではの強みを生かしたメニューを検討しましょう。
適正な価格設定の重要性
自費価格の設定は非常に重要です。急激な自費移行はリスクが高いので、自費価格設定を入念に検討することが重要です。
高すぎると患者さんが離れてしまい、安すぎると収益性が確保できません。以下の点を考慮して適正な価格を設定しましょう。
- 原価計算: 施術にかかる時間、材料費、人件費などを考慮した原価を算出します。
- 競合他社の価格調査: 周辺の自費診療を行っている整骨院や治療院の価格を調査し、相場感を把握します。
- 提供する価値に見合った価格: 患者さんがその価格を支払うことで得られる「価値」を明確にし、納得感のある価格設定を心がけます。例えば、短時間で劇的な改善が見込める場合や、長期的な健康維持に繋がるプログラムであれば、高めの価格設定も可能になります。
- 段階的な価格設定: 最初から高額な自費メニューを導入するのではなく、既存の保険診療に付加する形で、比較的安価なオプションメニューから導入し、徐々に自費の比率を高めていく方法も有効です。
患者さんへのスムーズな自費移行を促すコミュニケーション戦略

整骨院の自費診療移行において最も重要なのが、患者さんの理解と納得を得るためのコミュニケーションです。一方的な変更は患者さんの離反を招く可能性があります。
自費診療の必要性とメリットを丁寧に説明
患者さんに対して、なぜ自費診療が必要なのか、それによってどのようなメリットがあるのかを具体的に、そして丁寧に説明することが不可欠です。
- 保険診療では対応しきれない部分の明確化: 「保険診療では時間の制約があり、根本的な改善には限界があること」「より時間をかけて、丁寧に、個別の症状に合わせた施術を提供したいこと」などを伝えます。
- 自費診療で得られるベネフィットの提示: 患者さんが自費診療を受けることで「より早く症状が改善する」「再発予防に繋がる」「身体全体のバランスが整う」など、具体的なメリットを分かりやすく説明します。施術後の理想的な状態をイメージしてもらうことも有効です。
- インフォームドコンセントの徹底: 施術内容、料金、期間などを事前に詳細に説明し、患者さんが納得した上で同意を得る「インフォームドコンセント」を徹底します。
段階的な移行と選択肢の提示
急な完全自費移行は避け、患者さんが慣れるための猶予期間を設けるなど、段階的な移行を検討しましょう。
- 既存患者への配慮: すでに通院している患者さんに対しては、割引制度の適用や、一定期間は保険診療との併用を可能にするなど、配慮を示すことで離反を防げます。
- 説明資料の活用: 口頭での説明だけでなく、自費診療のメリットやメニュー内容を分かりやすくまとめたパンフレットや資料、ウェブサイトなどを用意し、患者さんがいつでも確認できるようにしておきましょう。
患者さんの声に耳を傾け、不安を解消する
患者さんからの疑問や不安には真摯に耳を傾け、丁寧に回答することで信頼関係を構築します。
- 個別相談の実施: 自費診療について詳しく知りたい患者さんに対して、個別の相談時間を設けることで、じっくりと話を聞き、それぞれの状況に合わせたアドバイスを提供できます。
- 成功事例の共有: 実際に自費診療に移行して改善した患者さんの事例(許可を得て)を共有することで、他の患者さんの不安を軽減し、期待感を高めることができます。
自費移行後の集客・マーケティング戦略

整骨院の自費診療移行後も、安定した集客を維持するためには、新たなマーケティング戦略が必要です。ターゲット層に響く効果的な情報発信を行いましょう。
オンラインでの情報発信強化
現代において、オンラインでの情報発信は集客に不可欠です。
- ウェブサイトの充実: 自費診療メニューの詳細、コンセプト、施術のメリット、料金体系などを分かりやすく掲載します。症例写真や患者さんの声なども掲載し、信頼性を高めましょう。
- SEO対策: ターゲットキーワード(例:「整骨院 自費診療 改善」「〇〇市 自費整体」など)での検索上位表示を目指し、ウェブサイトのSEO(検索エンジン最適化)対策を徹底します。質の高いコンテンツを継続的に発信することが重要です。
- SNSの活用: Instagram、Facebook、X(旧Twitter)などのSNSを活用し、施術風景、院内の雰囲気、患者さんの声、健康情報などを発信します。動画コンテンツも効果的です。
- Googleビジネスプロフィールの最適化: Googleマップ検索で上位表示されるよう、正確な情報(住所、電話番号、営業時間など)を登録し、口コミの収集と返信を積極的に行います。
オフラインでの集客施策
オンラインだけでなく、地域に根ざしたオフラインでの集客も重要です。
- 地域メディアへの掲載: 地域情報誌やフリーペーパーへの広告掲載、地域の健康イベントへの参加などを検討します。
- 紹介制度の導入: 既存患者さんからの紹介を促すための紹介割引制度や、紹介者への特典などを設けることで、口コミでの集客を強化できます。
- セミナー・ワークショップの開催: 地域の住民向けに、健康に関するセミナーやセルフケアのワークショップなどを開催し、自院の専門性をアピールし、新規患者の獲得に繋げます。
- 継続的なチラシ配布:オンラインではアプローチ出来ない潜在患者へのアピールに、チラシが有効です。定期的に継続することが重要です。
院内体制の整備とスタッフ教育
スタッフを抱える整骨院の場合、自費診療移行を成功させるためには、院内体制の整備とスタッフの意識改革が不可欠です。
スタッフ全員の意識統一とスキルアップ
自費診療に移行するという経営方針をスタッフ全員で共有し、それぞれの役割と責任を明確にします。
- 自費診療の理解促進: スタッフ全員が自費診療の目的、メリット、提供する価値を深く理解していることが重要です。
- 接客・カウンセリングスキルの向上: 患者さんとのコミュニケーションがより重要になるため、丁寧な説明や傾聴の姿勢など、接客・カウンセリングスキルの向上を目指した研修を行います。
- 専門知識・技術の習得: 新しい自費メニューに対応できるよう、スタッフの専門知識や技術力の向上をサポートします。外部セミナーへの参加や院内勉強会の実施などが有効です。
予約管理と顧客管理の徹底
自費診療では、患者さん一人ひとりに合わせたきめ細やかな対応が求められます。
- 顧客管理システムの活用: 患者さんの施術履歴、カルテ、コミュニケーション履歴などを一元管理できるシステムを導入し、個別のニーズに対応できるよう情報を共有します。これにより、患者さんへのパーソナライズされたサービス提供が可能になります。
常に改善を続ける視点
自費診療に移行した後も、患者さんの声に耳を傾け、サービス内容や価格設定を適宜見直す柔軟な姿勢が重要です。
- 定期的なアンケート調査: 患者さんからのフィードバックを収集し、改善点を見つけ出します。
- 効果測定と分析: 自費診療への移行が経営にどのような影響を与えているかを定期的に分析し、必要に応じて戦略を修正します。
まとめ

整骨院の自費診療移行は、経営の安定化と提供できるサービスの質の向上を実現するための重要なステップです。
しかし、成功には入念な準備と、患者さんへの丁寧な説明、そして段階的なアプローチが不可欠です。
本記事で解説したように、まずは自院の強みを明確にし、ターゲット患者のニーズを深く理解した上で、付加価値の高い自費診療メニューを開発しましょう。
そして、急激な自費移行はリスクが高いので、自費価格設定を入念に検討することが重要です。患者さんに対しては、自費診療の必要性とメリットを丁寧に説明し、選択肢を提供することで、理解と納得を得ることが不可欠です。
移行後も、オンライン・オフライン両面でのマーケティングを強化し、新規患者の獲得と既存患者の維持に努めましょう。
また、スタッフ全員の意識統一とスキルアップ、そして予約・顧客管理の徹底など、院内体制の整備も成功の鍵となります。
これらの戦略を実践することで、あなたの院が自然な自費治療移行に成功し、患者さんにとってより価値のある、選ばれる整骨院となることを願っています。
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投稿者プロフィール

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治療院ひとつひとつの特性や地域性・業種ごとの推奨マーケティング理論を踏まえた集客コンサルティングを行うプロ。
有名クチコミサイト「エキテン」黎明期に在籍し、企画立案、有料サービスのプランニング、一般店舗のコンサルタントとして集客・マーケティング業務に従事。
当時のクライアント店舗は300を超え、その大半が治療院であったため、治療院の集客を熟知するようになる。特に新規客獲得に貢献した集客のエキスパートとして2012年に独立し「店舗集客集団WAO」を立ち上げる。
2021年には店舗集客集団WAOの治療院部門を独立させ、「治療院集客集団WAO」を設立。